湘南で、自分だけの線を描く。イラストレーター長谷川ナツキが語る、一枚の絵から始まる物語。

「このままで、いいのだろうか」

日常の喧騒の中で、ふと立ち止まり、自分の心の声に耳を澄ます瞬間。多くの人が抱えるその小さな問いは、時に、新しい物語の始まりを告げる合図なのかもしれません。

大阪から湘南・藤沢へ。見知らぬ土地で、長谷川ナツキさんはイラストレーターとしての道を歩み始めました。その一歩は、決して大きなものではなかったかもしれません。しかし、彼女が描く一枚一枚の絵には、幼い頃の純粋な喜び、誰かの役に立つことの楽しさ、そして「自分だけの色」を見つけた瞬間の確かな手応えが、静かに、けれど鮮やかに息づいています。

これは、一枚の絵をきっかけに自分の「好き」を信じ、新たな一歩を踏み出した一人の女性の物語。そして、この記事を読むあなたの心に「とりあえず、やってみようよ」と、小さな勇気の種を蒔くための、温かい手紙です。


【Movie】


【Interview】

「自分の描いた絵が、誰かの役に立つ」その喜びが原点に

長谷川ナツキです。神奈川県の藤沢市でイラストレーターとして活動してます。出身は大阪で、ちょうど1年ぐらい前にこっちに越してきました。イラストレーターとして活動を始めたのも、ちょうど1年前ぐらいからです。

私の、一番初めに描いた絵の記憶みたいなのが残ってて。それが3歳の時、クレヨンでサラダの絵を描いたんですけど、それを親が「めっちゃ上手!」って褒めてくれて。コピーしてカレンダーにしたり、Tシャツにしてくれたんですよ。それがとっても嬉しくて、「じゃあ今度はあれ描こう、これ描こう」って、たくさん描いたのを覚えています。

大学時代は演劇サークルに入ってたんですけど、演劇には本当に1mmも興味がなくて(笑)。ひょんなことから友人が入るっていうので入って、3年間、照明班として活動していました。

3年目の時に、舞台のイメージ図が欲しいって言われて描いたんですよね。今イラストレーターとして活動していて、なりたいなって思ったのは、そこで絵を描いた経験が繋がってるかなって。自分の描いた絵が人の役に立つっていうか、誰かと一緒に物を作る中で、私は絵を描くことでそれに貢献できる、みたいな感覚がすごく楽しかったんです。

一枚の猫の絵が教えてくれた「自分色を出せるんだ」という確信

自分が描いてるものを人に見せた時に「色味が特徴的だね」って言ってもらえることが多いんですけど、自分でも「色味」をすごい大事にして制作してるなって思います。詳細よりも、引きで見た時にどんなバランスかとか、色合いがいいか、みたいな感じで。

影響を受けてるなって思うのが二人いて、それがアンリ・マティスと和田誠さん。めちゃくちゃ大好きで画集も持ってるんですけど、行き詰まったりした時はその二人の画集を見ながら、「ああ、こういうのもあるよね」みたいなインスピレーションを受けてるって感じです。

大学を卒業してから趣味で絵を描いてたんですけど、地元のアートスクールみたいな場所でデッサンとかをずっとやってて。でも、ふとした時に関係ないような自由な絵を描きたいなって思って、自分の猫の絵を、本当に好きな色で、好きなフォルムで描いてみたんです。

その絵が描き終わった時の満足感が自分の中ですごく大きくて、「ああ、なんかめっちゃ楽しい!」みたいな。今まで目の前にあるものをそっくりそのまま綺麗に描くっていうのを頑張ってたけど、「ああ、こういう風に自分も出せるんだ」って。「自分色を出せるんだ」ってことをその時に初めて思って。

それきっかけですね。ずっとイラストレーターに憧れてたけど、「いや、やっぱりなりたい」って確信っていうか、決意したのは。その猫の絵が大きいです。

「とりあえず、やってみようよ」と、誰かの背中を押せたら

私が普段制作してるイラストって、サイズがもう大体A4とかのちっちゃい絵なんですけど、私はもっとでっかい大きなサイズの絵も制作してみたいって思ってます。自分の部屋に飾ってみたいし、人にもプレゼントしてみたりしたいですね。

よく人に「何で絵を描くんですか?」って聞かれることがあって、聞かれるたびに「確かに何でかな」って自分でも考えるんですけど、理由は色々あれど、一番はやっぱりシンプルに「すごく楽しいから」って思ってます。

でも、ただ楽しいだけだったら趣味で自分が楽しい絵を描けばいいやって思うんですけど、でも、絵を描き続けて、それが例えば私の描いた絵が人の役に立ったり、心の支えになったり、問題を解決したりできる可能性が、もしかしたらあるんじゃないかなって思ってて。それで今は絵を描き続けてるんだと思います。

本当に、イラストを仕事にできるかって何年も何年もすごく悩んだんですけど、いざ始めてみて思うのが、始めてみると何とでもなるし、モチーフが見つかるから。もし「こういうことやりたいんだけど、私なんかにできるのかな」とか、「私じゃ力不足じゃないかしら」とかって思ってる人には、「とりあえずやってみようよ」ってことを伝えたいです。


【Photo Gallery】


【編集後記】

長谷川さんの言葉には、不思議な軽やかさがあった。

「演劇には1mmも興味がなかった」「ふとした時に自由な絵を描きたくなった」。その時々の心の動きに、素直に身を委ねる。そのしなやかさこそが、彼女を新しい場所へと運び、イラストレーターという天職に巡り合わせたのかもしれない。

特に印象的だったのは、一枚の「猫の絵」の話だ。評価や正解を求めるのではなく、ただ自分の「好き」という感情に従って、好きな色で、好きなフォルムで描いた一枚。それが、何よりも大きな満足感と、「自分色を出せる」という確信を与えてくれた。

それは、私たち一人ひとりの中に眠っている「好き」という感情の持つ、静かで、しかし確かな力を教えてくれるエピソードだ。

「とりあえず、やってみようよ」。

彼女のその言葉は、かつて悩みながらも一歩を踏み出した人の言葉だからこそ、私たちの心に優しく響く。もし今、あなたが何かの前で立ち止まっているのなら、まずは一枚の猫の絵を描くように、ほんの少しだけ、自分の「好き」に正直になってみてはどうだろう。

そこに、あなたの新しい物語の入り口が、隠されているのかもしれない。


【Profile】

長谷川 ナツキ(はせがわ なつき)

藤沢市在住のイラストレーター。約1年前に大阪から移住し、活動を開始。アンリ・マティスや和田誠に影響を受けた、温かみのある色味と線が特徴。書籍やWeb、事業のコンセプトアートなど、幅広い分野で活躍中。最近では、『フジノオト』でも紹介した入澤理世さんの食育事業の絵本イラストも担当。

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