地域一丸となって、こどもたちの「食の原体験」を豊かに|湘南で広がる食育の輪 – 入澤理世さんの挑戦

かつて、食をないがしろにし、心と体のバランスを崩した一人の女性がいた。その深い後悔から始まったささやかな実践は、いつしか個人の物語を超え、地域を巻き込む温かい「うねり」へと変わっていった。

入澤理世さん。彼女が始めたのは、単なる料理教室ではない。子どもたちの心に、生涯の宝物となる「食の原体験」を根付かせるための活動だ。そして、その活動は「親だけが頑張らなくていい。地域みんなでやればいい」という、優しくも力強い哲学に支えられている。

農家、和菓子屋、保育園、そしてイラストレーター。一人、また一人と、その想いに共鳴する仲間が増えていく。これは、一人の「後悔」が、地域を繋ぐ「希望」へと変わっていく物語。私たちの食卓が、そして未来が、もっと豊かになるためのヒントが、ここにあります。


【Movie】


【Interview】

体を壊して気づいた、両親が与えてくれた「食の原体験」という宝物

入澤理世です。湘南地区で、子どもたちの「食の原体験」を豊かにすることをテーマに食育の活動を行っています。

私は幼少期、食に関して比較的恵まれた環境で育ってきました。にもかかわらず、20代は働きすぎて毎日コンビニのご飯を食べているような生活を送っていたら、体を壊してしまって。そこで食をないがしろにしたことをすごく後悔しました。

その時行ったことが3つあります。1つ目が旬の食材をいただくこと。2つ目が日本の行事食を大切にすること。3つ目が野菜を育てること。ふと気づいたら、これら3つは幼少期に自分の親や親戚が私に施してくれた「食の原体験」だったんです。

今の社会を見回した時に、働いているママもパパも多くて、子どもたちの食の原体験がどんどん希薄になっているなと感じています。だけど、ママ・パパは子どもたちを生かしているだけでも十分頑張ってる。であれば、子どもたちの食の原体験を作るのは地域一丸となってやればいい。そう思って、湘南地区での食育の活動を始めました。

一人では見えなかった景色。「地域のシナジー」が生んだ感動

この活動は、一人で始めて約2年間ぐらい、時々に農家さんだったりお魚屋さんに協力いただいてやっていたんですけれども、やっぱり一人でやれることって限界があるなってすごい思っていて。

気づいたんです。地域一丸となって行っているこの活動が、逆に、私たち地域を繋いでいるということに。その気づきがすごく大きくて、これをもっと広げていけたら楽しいな、もっと素敵な活動になるなというところで、この4月に「湘南食育WAVE」という市民団体を立ち上げました。農家さんや保育園の園長先生、思いに賛同してくださったボランティアの方々が集まってくださって、すごく熱量の高いチームになっています。

ちょうど昨日、初めての保育園での食育事業を行いました。テーマは「子どもの日の柏餅」です。この絵本(#01で登場した長谷川ナツキさんがイラストを担当)をきっかけに、藤沢市の上州屋さんという江戸時代から続く和菓子屋さんが、一緒に行ってくださることになって。

当日は上州屋さんが来てくださって、この絵本で柏餅を学んだ後、なんと米粉の粘土で子どもたちと一緒に柏餅を作ってくださったんです。もう子どもたちが本当に大はしゃぎで。私、ずっと一人でやってきて、こういう感覚は味わえなかった。まさに地域の皆さんが生み出してくださったシナジーだったな、と感じてすごく感動したんですね。

子どもたちの心に根っこを。農と家庭を繋ぐ、未来への種まき

会社員だったので地域の知り合いもいなくて、本当にゼロから始めて。Instagramで「こういうことをやりたいんです」ってお伝えして、賛同してくださった方と直接お会いして…。一つ一つ、地域の方との繋がりを作っていって、今の活動に繋がっていった実感があります。

これからは、保育園での食育事業と共に、「農と家庭を繋げるプロジェクト」をやっていきたいなと思っています。湘南には素晴らしい農家さんがたくさんいらっしゃるのに、子育て世代のお父さん・お母さんが、そのことを知らないケースがすごく多い。一方で、離乳食が始まったり、子育て世代は食に関する課題が一番高い時期で、孤独な戦いになりがちです。そういった家庭の課題を、農家さんのお野菜や、農家さんのところで学ぶことで解決できることがたくさんある。そこを繋げていくことに力を入れていきたいです。

湘南食育WAVEのゴールは、すごくずっと先の話かなと思っています。今、一緒に食を楽しんでる子どもたちが大人になった時に、この地域でみんなで作った食の原体験があることで、人生が豊かになっている。そういったところを目指したい。私たちが行っている活動が、子どもたちの心に残って、根っこにこうどんどん張っていく。その根っこが深くて、太ければ太いほど、大きな木に育つんじゃないかなと思っています。


【Photo Gallery】


【編集後記】

入澤さんの話を聞いていると、「シナジー」という言葉が何度も心に響いた。

一人で始めた活動が、イラストレーター、そして江戸時代から続く和菓子屋の心を動かし、そして地域の子どもたちの大きな歓声を生んだ。それは、彼女が「助けてください」ではなく、「一緒にやりませんか」と、同じ未来を見る仲間を探し続けたからだろう。

「ママ・パパは、こどもを生かしているだけで十分頑張っている」。

その言葉に、救われる人はどれだけいるだろうか。個人の課題を、個人の努力だけで解決させようとしない。その優しさが、彼女の活動の根底には流れている。

食育は、単に知識を教えることではない。誰かと食卓を囲んだ記憶、土の匂い、旬の味。そうした五感に刻まれた「原体験」こそが、人生を支える揺るぎない根っことなる。入澤さんが蒔いているのは、人と人が繋がり、未来を育む、希望の種だ。

その温かい「音」は、きっとこの湘南の地から、また新しい波を起こしていくに違いない。


【Profile】

入澤 理世(いりさわ りよ)

湘南地区を拠点とする食育活動家。「湘南食育WAVE」代表。自身の経験から「食の原体験」の重要性を痛感し、会社員から独立。保育園や地域の事業者と連携し、「地域全体で子どもたちの食を育む」をテーマに活動。農家と家庭を繋ぐプロジェクトなど、新たな食育の形を模索している。

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