湘南AIコミュニティ(仮) 第3回|「相談」が、その場で動き出す夜

藤沢の夜、イノベーションスナックみらぼ。

毎月第3水曜の夜、ここで開かれている湘南AIコミュニティ(仮)の、3回目の集まり。

今回の色合いは、これまでの2回と少し違っていた。 ピッチ形式の事例発表に加えて、「いまこの業務でこう困っているんだけど、AIで何とかならないか」という相談が前面に出てきた回だった。

そして面白かったのは、その相談が出された瞬間から、他の参加者の知見が次々と乗っかってきて、その場で解決の道筋が立ちはじめていったことだ。

ここは事例を聞くだけの場ではなく、自分の現場の課題を持ち込めば、その場で動き出す場でもある、ということが、はっきりした夜だった。

運営を、もう一段“みんなのもの”にする

冒頭、本日の日替わりママである世良さんから運営方針の話があった。

冒頭、世良さんから運営方針の話があった。

このコミュニティの面白さは、ディープに使っている人もライトに触れている人も混在しているところにある、という前提があらためて共有された。

詳しい人だけで尖っていく場でもなく、初心者だけが集まる場でもない。 その温度差ごと持ち寄れることが、結果的にいろんな視点を引き出す土壌になっている。

なお、運営は社内外で生成AIを使いこなしている上田さんが担っている。

現場の悩みが、その場で解像度を上げていく

最初の相談は、訪問診療のクリニックで働く正木さんからだった。

訪問診療のクリニックで、看護師・アシスタント・ドライバーなど15人ほどのチームの中で、業務改善ができないかと悩んでいるという。

事前に整理してきてくれた具体的な課題は、3つ。

課題1:診療レポート作成と送信

ケアマネージャー向けのレポート作成。 電子カルテから情報をコピーし、Wordで編集、PDF化し、別の医療コミュニケーションシステム(メディカルケアステーション)にログインしてアップロードする。 1件ごとに複数システムを行き来する手作業で、半日でこなせるのが12件程度という負荷だ。

課題2:帰院時間の記録作業

過度な残業にならないかを把握するために、各医師の「診察終了時間」に一律で「+15分」を加算した帰院時間を、手書きで記録し、エクセルに打ち直している。 医師の人数や訪問件数が増えるほど手間が増え、入力漏れや計算ミスの原因にもなっている。

課題3:電話対応の要約と記録

ケアマネージャーや訪問看護ステーションから、患者の状況についての電話連絡が頻繁に入る。 通話中に手書きでメモを取り、記憶とメモを頼りに要約を作成し、それを電子カルテに改めて転記する。 1つの電話が何度も書き写されている状態だった。

この3つの相談に対して、その場でいくつもの方向性が乗ってきた。

  • 課題2の帰宅時間は、入退室管理システムの「鍵を開けた時間」のログをトリガーにすれば、自動で取れるのではないか
  • 課題1のレポート作成は、ドクターの音声を骨伝導イヤホンで拾って、クラウド側で文字起こし・要約する構成にすれば、手作業がかなり減らせる
  • 課題3の電話対応は、クラウドPBXを導入すれば、音声がそのままクラウド側でテキスト化され、要約までAIに渡せる
  • 院内サーバーがクラウドにつながっている場合、医療情報のセキュリティ要件と相談しながら設計する必要がある

もうひとつ重要だったのは、コスト感の話だった。 クラウドPBXは月数万円規模で導入できる。1年前は同じことをやるのに何倍もの費用と工数が必要だったが、AIで急に手が届く範囲になっている。

「いま選択肢が一気に増えているフェーズなので、できないと決めつけないでいい」という言葉が場に共有された。

ここで起きていたのは、たんなる質問と回答ではなかった。 医療現場の3つの課題に対して、業務改善コンサル、システム、AIの実装、それぞれの立場の人が自然に知見を持ち寄り、現場で動かせる選択肢が並び始める、という現象だった。

このコミュニティの強みは、こういう瞬間に出るのだと思う。

生成AIで、メディアそのものを自動化する

次の発表は、三浦さんから。

三浦さんは2つの実例を共有してくれた。

ひとつ目は、Xを中心にしたガジェット系の自動投稿アカウント。 AmazonのデータからAIで反響の出そうな商品を選び、画像と短文をAIで生成して投稿していく仕組みだ。

ふたつ目は、もっと大きなチャレンジ。

中東経済新聞というメディアを、ほぼ完全自動で立ち上げているという話だった。

仕組みはこうだ。

  • 中東の主要メディア(アルジャジーラ、BBC、フランス24など)にクローラーをかける
  • RSSで情報を回収
  • 日本語へ自動翻訳
  • WordPress用記事、X用投稿、Threads用投稿、Instagram用スライドに自動整形
  • それぞれに自動投稿

この一連の仕組みを、本業を終えた夜の時間にClaude Codeで構築し、3晩ほどで動くところまで持っていった、と語っていた。

特に印象的だったのは、こんなやり取りだ。

AIに生成させていると、トランプ大統領まわりの話など、過激な内容になりがちだった。 そこで「企業のベーシックなセキュリティラインを越えないように」と前提条件を入れたら、要約の論調が穏当に整った。 AIは“どこまで踏み込んでいいか”を、こちらが伝えれば理解してくれる。

メディアを「人手で書いて運用するもの」から、「AIで自動的に流れ続ける装置」として再定義しようとしている発表だった。 そしてその先で、進出コンサルや実際のビジネス領域につなげていく構想が描かれていた。


ライブで生まれていく、ミラボのホームページ

途中、上田さんがClaude Codeで「ミラボのホームページ」をその場でつくり始めるシーンがあった。

これがかなり強烈だった。

指示の出し方はシンプルだ。

  • まず「ミラボについて調べて」とAIに認識させる
  • そのうえで「ホームページを作りたい」と伝える
  • 一般的な知識はAIに任せ、自分はチームを組ませる方の指示だけ出す
  • Claude Codeのオーケストレーション機能で、リーダーがデザイナーやエンジニアを呼び、自動的にチームで進めていく

その結果、夜の藤沢の写真をベースにしたトップビュー、日替わりママ(世良さん、三浦さん、小池さん、アリーさん、田中さんなど)の紹介ブロック、よくある質問まで、ライブで形になっていく。

途中、リロードするたびに肖像の写真が差し替わったり、文字組みが微妙に変わったりして、その変化を眺めながら全員が笑っていた。 このコミュニティの面白さは、こういう「いまこの瞬間に動いていく」場面が、テキストや録音では伝わりきらないところにあるのだと思う。

ただし、議論は「すごい」だけでは終わらなかった。

  • AIで生成したコードは、メンテナンス性が課題になる
  • 中身がブラックボックス化して、運用者が触れない構造になりがち
  • セキュリティ面でも、決済や顧客データを扱う場合は、設計の透明性が前提になる

「ちゃんとしたサイトはプロに頼むべき領域がある」「自動生成は別の用途で割り切るべき」というラインも、参加者の中で共有されていた。

新しい技術が、目の前の地域ビジネスの課題と結びつく瞬間が、いくつもあった夜だった。

英語の上司、というあたらしい困りごと

後半、もう一つ相談が持ち込まれた。

「上司が外国の方になって、コミュニケーションが英語になってしまった。自分はあまり得意ではないので、何かAIでうまくサポートできないか」という相談。

ここでもアイデアが次々と出た。

  • ポケトークなどの専用デバイス
  • AirPodsとアプリを組み合わせたリアルタイム翻訳
  • 最近APIが公開された、ChatGPTのリアルタイム翻訳機能
  • Google Glassなどスマートグラス系の進化

そして、こんなアプローチも共有された。

26の文型と35の語彙を覚えれば、英会話は短文ベースで成立する。 AIに文型を生成させ、音声合成で読み上げファイルを作り、ひたすら聞き続ける。 短文で話せば、相手も短文で返してくれる。

ツールに任せるか、自分で身につけるか。 あるいは、その両方を組み合わせるか。 「単純な翻訳機能」を超えて、AIを使った言語学習や業務サポートにまで、自然と話が広がっていった。


今回見えてきたこと

3回目を終えて、いくつか共通点がはっきりしてきた。

ひとつ目は、このコミュニティが「事例を発表する場」から「現場の悩みをその場で解く場」に変わりつつあること。

正木さんの医療現場、英語のコミュニケーション。 どれも、誰か一人で抱えていたら止まっていた話が、参加者の知見と組み合わさることで、その場で動き始めていた。

ふたつ目は、技術の話」よりも「組み込みの話」が増えていること。

クラウドPBXとAIの組み合わせ、社内ツールと個人ツールの使い分け、メンテナンス性とセキュリティの設計。 何ができるか、ではなく、それを現場でどう運用するか、という解像度の話が中心になっていた。

このあたりの話は、参加者の業種が広いからこそ出てくる視点で、湘南という地域ならではのコミュニティの色になっていきそうだ。


次の夜へ

次回は、6月17日(水)。 ※毎月 第3水曜日

今回の場で出た相談のいくつかは、次回までに動いている可能性がある。 医療現場の業務改善、メディアの自動化、ミラボのホームページ。 試行錯誤の続きが、また持ち寄られるはずだ。

完成された場ではなく、参加者の現場とコミュニティの場が、行き来しながら育っていく。 その手応えが、はっきりと感じられる3回目だった。