Hub Session Vol.2 @湘南ライフタウン 取材レポート|フジノレポート
「街を変える」の前に、街の見え方を変える。
そんな時間だったのかもしれない。
2026年3月13日(金)、湘南大庭市民センターで開催された Hub Session Vol.2。


Vol1が「暮らしの中の課題」や「地域で起こり始めている実践」に光を当てた回だったとすれば、今回のテーマはもう少し内側にあった。
それは、自分の視点で町を捉え直すこと。
制度や肩書きの話だけではなく、
それぞれが持つ違和感や関心、表現や実践の仕方によって、
湘南ライフタウンという場所がどう違って見えてくるのか。
今回のHub Sessionは、
そんな「地域編集」の入口を、
ローカルゲストたちの実践を通じて探る夜だった。
暮らしの輪郭は、誰かの実践で見えてくる
冒頭、主催の藤沢市・吉野谷さんから語られたのは、
このHub Sessionが目指している場のあり方だった。

湘南ライフタウンには、
外から見るだけでは見えにくい魅力がある。
一方で、人口構造の変化や住まいの課題など、
時間とともに輪郭を増していく悩みもある。
ただ、それらは「行政が解決する課題」としてだけ置かれるべきものではなく、
誰かの困りごとが、別の誰かの“やってみたい”とつながることで、
少しずつ動き出していくものでもある。
だからこそHub Sessionは、
発表の場であると同時に、
言葉にしにくかった思いや違和感を共有できる場として開かれている。
第二回となる今回は、
地域の中で独自の視点を持って暮らし、働き、表現している人たちの実践が集められた。
「町を見る角度」が変われば、
同じ風景も、別の可能性を持って見えてくる。
そんな予感を伴って、セッションは始まった。
ケアが必要になっても、暮らしは続いていく
― 川邊祐詩さんが見つめる、大庭の10年後・20年後 ―
最初に話したのは、株式会社ぐるんとびーで働く 川邊祐詩さん。
岐阜県から藤沢へ移り住み、大庭に暮らして5年。
介護やケアの現場に関わる立場から、
この町の未来を見つめている。

印象的だったのは、
大庭地区の高齢化率の話から始まったことだった。
数字として見れば、すでに全国平均を上回る高齢化が進んでいる。
けれど川邊さんが伝えたかったのは、
「高齢者が増える」という事実そのものではない。
その先に、
どんな困りごとが増え、どんな関係性が必要になるのか。
そこに目を向けることだった。
ぐるんとびーでは、
高齢者や認知症のある方たちが、
制度の枠の中だけでなく、
その人らしい暮らしを続けられることを大切にしている。
花が好きな人は花に触れ、
畑仕事をしてきた人は土に触れ、
料理が好きな人は誰かのために料理をする。
介護が必要になったからといって、
その人の“好き”や“役割”まで失われるわけではない。
川邊さん自身が、
こうしたケアの現場に強く引き寄せられたきっかけとして語ったのが、
学生時代に出会った一人の認知症の女性のことだった。
社会制度だけでは支えきれない現実がある。
そのことに初めて直面し、
「人が人らしく生きるとは何か」を考え続けるようになったという。
その延長線上で語られたのが、
大庭で実施したキャンドルナイトの話だった。
キッチンカー、地域の子どもたち、高校生ボランティア、
全国から寄せられたキャンドル。
大きなイベントを成功させることが目的ではなく、
その過程で、
誰かが誰かを思い、助け合う関係が、この町に少しずつ育っていくこと。
そこに意味があるのだと川邊さんは語った。
ケアは、制度だけでは完結しない。
そして、暮らしは、介護が必要になったその先にも続いていく。
川邊さんの話は、
湘南ライフタウンの未来を不安として語るのではなく、
人と人との関係性をどう育てていくかという問いとして差し出していた。
団地は、更新できる暮らしの器かもしれない
― 鷲津了大さん・視穂さんが実践した“住まいの編集” ―
続いて登壇したのは、
家具設計・製作と建築設計を手がける 鷲津了大さん・視穂さん。
夫婦で活動する43°nとして、
自ら設計し、自ら暮らす住まいの実践を紹介した。


二人の話は、
「どんな家をつくったか」という事例紹介にとどまらなかった。
むしろ中心にあったのは、
どんな条件を大切にして、どんな視点でこの町を選んだのかというプロセスだった。
子どもが生まれ、
これからの働き方や暮らし方を見直す中で、
賃貸から持ち家へ、
新築ではなく中古住宅のリノベーションへと舵を切った二人。
その際に重視したのは、
単に物件価格や広さではなく、
地域の自然環境、保育環境、子育てのしやすさ、
そして自分たちの仕事を続けていける土台があるかどうかだった。
湘南ライフタウンは、
大規模な団地開発の町として語られることが多い。
けれど二人が注目したのは、
計画の中で残されてきた緑地や、公園として守られてきた地形の豊かさだった。
また、リノベーションの実践も興味深かった。
変えられない壁を制約としてではなく、
空間の特徴として活かすこと。
家具と建築の設計を相互に検討しながら、
暮らしの動線や視線まで含めて住まいを考えること。
リビング、書斎、キッチン、子ども部屋――
それぞれが機能だけでなく、
家族の関係性や時間の流れ方を受け止める空間として設計されていた。
二人の話を聞いていると、
団地という言葉の印象そのものが、少し更新されていく。
老朽化や高齢化は確かに課題だ。
けれど見方を変えればそこには、
新しい暮らし方を試せる余白もある。
鷲津さん夫妻の実践は、
「住まいを探す」のではなく、
住まいと町を、自分たちの手で編集していくことの可能性を示していた。
ひとつのハンガーから、世界の見え方は変わる
― 安田嗣さんの“蒐集表現”という実践 ―
三人目のローカルゲストは、
HOOK-ERとして活動する 安田嗣さん。

肩書きには「蒐集表現者」とある。
聞き慣れない言葉だが、話を聞いていくと、
その輪郭が少しずつ見えてくる。
安田さんが長年集めているのは、ハンガーだ。
ただし、単なるコレクションではない。
服をかけるという、
誰もが知っているはずの道具。
だからこそ人は、そこに驚きや発見があるとはあまり思っていない。
けれど実際に集め始めると、
素材も形も用途も、時代背景も文化も違う、
思いがけない多様さが現れる。
ブラシ付きのハンガー。
旅先に持ち運ぶための折りたたみ式ハンガー。
靴下のための小さなハンガー。
一見すると些細な道具のようでいて、
その背後には、
時代ごとの生活様式や、
人々の困りごと、それを解決しようとした工夫が刻まれている。
安田さんは、
そうした“もの”の中に宿る物語や引っかかりを拾い上げ、
展示や言葉として表現している。
そして「HOOK-ER」という活動名も、
ハンガーのフックから取られている。
ものを引っかけるフックのように、
誰かの意識に小さな引っかかりをつくる存在でありたい。
そんな思いが込められている。
今回のHub Sessionで、
安田さんの話は少し異色だった。
介護でも住まいでもなく、
ハンガーという日用品の話から始まるのだから当然かもしれない。
けれど、その“ずれ”がむしろ大きかった。
町の編集とは、
大きな計画を描くことだけではない。
見慣れたものを、別の角度から見直すこと。
そこから、今まで見えていなかった町の輪郭が立ち上がってくる。
安田さんの実践は、
そんな思考の柔らかさそのものを、この場にもたらしていた。
まちづくりは、つくることより“つなぐこと”に近い
― 影山裕樹さんが語る「地域編集」という視点 ―
スペシャルゲストとして登壇したのは、
編集者であり「地域編集」を実践・研究してきた 合同会社千十一編集室 代表 影山裕樹さん。

影山さんの話は、
全国各地のローカルメディアや地域プロジェクトの事例を紹介しながら、
「編集」という視点で町をどう捉え直せるかをひもといていくものだった。
自治体が発行するメディア、
温泉街だけで買える本、
生産者と読者の距離を縮める食の雑誌、
観光客の見方をずらす猫目線のサイト。
それらに共通していたのは、
単なる情報発信ではなく、
誰と誰を、どうつなぐかという工夫だった。
今は、ただ発信するだけでは届かない時代だ。
何を見せるかだけではなく、
どんな入り口を用意すれば、その地域に関心を持つ人が現れるのか。
そこに編集の役割がある。
さらに影山さんは、
町をつくる主体についても視点を広げていった。
従来の「まちづくり」は、
不動産を持つ人や建築を担う人の仕事として捉えられがちだった。
けれどこれからは、
グラフィックデザイナーや編集者、ライターのように、
言葉や見せ方を扱う人たちもまた、町に関われる。
そのうえで印象的だったのが、
「強すぎるつながり」ではなく、
ほどよく開かれた関係性の大切さを語っていたことだった。
誰とでも深く結びつく必要はない。
むしろ、
たまたま隣にいても違和感がない、
同じ空間を共有していても無理がない、
そんな“小さな庭”のような場が、
地域にはもっと必要なのではないか。
影山さんが最後に参加者へ投げかけたのは、
「自分にとって心地よい小さな庭とはどんな場所か」という問いだった。
大きなビジョンを掲げる前に、
まずは自分が無理なくいられる場のイメージを持つこと。
そこからしか、続いていく地域は生まれないのかもしれない。
ここは、言葉のあとに関係が始まる場所
トークイベントの後、
会場は再び交流の場へと変わっていった。

前回と同じく、
ただ話を聞いて終わるのではなく、
立ち話が始まり、
あちこちで小さな対話が生まれていく。
配られたシールや席の工夫もあって、
「話しかけてみてもいいかもしれない」という空気が最初から少しだけ整えられていた。
この日の交流会では、
ディボート株式会社の坂井さんから食事の提供もあった。
Bakery FLGarden のパンを使ったお食事が用意され、
参加者たちは軽く手に取りながら、
自然と会話を続けていく。


食べ物があると、
人は少しだけ立ち止まり、
少しだけ話しやすくなる。
Hub Sessionは、
誰かが完成された答えを持ち寄る場ではない。
むしろ、
まだ名前のついていない違和感や願いを、
その場にいる誰かと一緒に
少しだけ言葉にしてみる場なのだと思う。
その言葉がすぐに
何かのプロジェクトになるわけではない。
けれど、町は案外、
そうした小さな会話の積み重ねからしか
変わっていかない。
次のHubへ
第一回が「地域の中ですでに起きている実践」を照らした回だとすれば、
今回のVol.2は、
その実践をどう見るか、どう言葉にするかに触れた回だった。
介護、住まい、蒐集、編集。
一見ばらばらに見えるテーマが、
「この町でどう暮らすか」という一点で、
静かにつながっていた。
Hub Sessionは、
何かの結論を出す場ではない。
けれど、
自分の住む町を、
いつもと少し違う角度から見直すきっかけにはなる。
湘南ライフタウンという場所に、
まだ見えていない可能性があるのだとしたら、
それはきっと、
誰かの実践や表現の中に、すでに小さく始まっている。
次のHubが、
また別の視点を連れてきてくれることを期待したい。


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