トマトは、何色の味がする?

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——藤沢・柿右衛門農園「たべまなフィールド」で出会った、発見・探求の夏

親子向け食育教材「湘南たべまな便」と連動して行われた、夏野菜の収穫体験。教材で知った野菜を、畑で見て、触れて、味わった一日の記録。


赤、黄色、紫。

畑の中で、色とりどりのトマトが実っている。

同じトマトなのに、形も色も少しずつ違う。
口に入れてみると、味も違った。

黄色、甘い!

紫は、味が濃いね

子どもたちの声に、大人もつられて実を手に取る。

スーパーでは、野菜は種類ごとに分けられ、きれいに並んでいる。
けれど、この日の野菜には、葉があり、茎があり、土があり、その周りを虫が飛んでいた。

2026年8月8日(土)。
藤沢市打戻の柿右衛門農園で開かれたのは、湘南たべまな便の体験企画「たべまなフィールド」。

テーマは、「発見・探求の夏」

それは、野菜をたくさん持ち帰るだけではなく、いつもの食卓の少し手前まで会いに行く時間だった。


「届く教材」から、「出かける学び」へ

「湘南たべまな便」は、1年を通して日本の食文化を学ぶ、親子向けの食育教材キットだ。

旬の食材と一緒に、オリジナル絵本やワークシート、レシピなどが家庭へ届く。
味噌づくり、柏餅、梅シロップ、お正月の準備——。
季節ごとの食べものや行事を、親子で手を動かしながら学べるようにつくられている。

2026年度からは、教材で知るだけでなく、生産者のもとへ実際に出かける「たべまなフィールド」が始まった。

第1回は、小田原の梅農園で行った梅もぎと梅シロップづくり。
第2回となる今回は、夏休み号で家庭へ届けられた野菜を育てている、柿右衛門農園が舞台となった。

教材の中にあった野菜が、どんな場所で、どんな姿で育っているのか。

ページの上で得た知識と、畑での体験をつなぐ。
その間にある距離を、親子で歩いてみる企画だ。

湘南たべまな便の夏休み号教材/絵本とワークシート

草むらの向こうに、いつもの野菜がいた

農園から畑へ向かう道には、田んぼやほかの農家の畑が広がっている。

畑に着くと、最初は草むらや虫を前に、少し足を止める子もいた。

土の上を歩くこと。
葉の間に手を入れること。
飛んでくる虫をよけながら、野菜へ近づくこと。

どれも、売り場で野菜を選ぶときには必要のない動きだ。

けれど、一つ見つけると、次の一つが気になり始める。

葉の陰に隠れたトマトを探し、食べごろの実を教えてもらいながら、そっと摘み取る。
赤い実の隣には黄色があり、その奥には紫色がある。

小さなミニトマトだけでなく、中玉のトマトもある。
ピーマン、キュウリ、しそ、エゴマ、唐辛子。
同じ畑の中に、形も香りも違う野菜が並んでいる。

星のような角を持つオクラ「ダビデの星」を見つけると、子どもも大人も足を止めた。

これは何?

その一言をきっかけに、畑の中で次々と小さな会話が生まれていった。


同じトマトなのに、味が違う

この日、特に子どもたちの反応が大きかったのが、トマトの食べ比べだった。

赤、黄色、紫。

色が違えば、味も違う。
黄色は甘く、紫は味が濃く、フルーティーに感じる。

誰かの感想を聞くと、別の子も試してみたくなる。
一つ食べるたびに、次の色へ手が伸びていった。

畑には、きれいに実ったものばかりがあるわけではない。
熟しすぎたもの、割れたもの、地面に落ちたものもある。

育った野菜が、すべて商品として店頭に並ぶわけではない。
そんな当たり前のことも、畑に立つと急に具体的になる。

トマトは、最初から透明なパックに入っているわけではない。

いくつもの実の中から、農家が食べごろを見極め、選び、運び、ようやく売り場や家庭へ届く。

子どもたちがこの日見ていたのは、野菜の育ち方だけではなかった。
普段は見えない「届くまで」の途中にも、少し触れていた。


野菜のそばには、農家の工夫がある

柿右衛門農園は、東京で会社員として働いていた園主が2014年に就農し、藤沢北部で始めた農園だ。

化学肥料や化学農薬に頼らず、野菜を育てている。

畑の周りに植えられた背の高いソルゴーは、台風などの強い風から野菜を守る壁になる。
花は、野菜につく害虫を食べてくれる益虫を呼び込む。

薬だけに頼るのではなく、植物や虫、それぞれの働きを借りながら畑の環境を整えていく。

畑を歩いて初めて、野菜の周囲にある工夫も見えてくる。

キュウリの表面に残る白い粉のようなものは、「ブルーム」と呼ばれる自然なものだと教えてもらった。
農薬ではなく、キュウリ自身が水分を守るためにまとったものだという。

採れたての野菜は、実だけでなく軸や周りの部分まで柔らかい。
手触りや香り、折れ方にも、鮮度が表れていた。

知識として聞けば数行で終わる話も、目の前に実物があると、確かめたいことへ変わっていく。


袋が重くなるほど、家族の会話が増えていく

収穫が進むにつれ、それぞれの袋は少しずつ膨らんでいった。

親子で一緒に実を探す家族。
収穫した野菜を並べて、写真を撮る家族。
袋いっぱいのトマトを見せながら、笑い合う子どもたち。

何にして食べようか

畑の中で、早くも帰宅後の相談が始まる。

エゴマは、ニンニク醤油に漬け、好みで唐辛子を加えて、ご飯と一緒に食べるのがおすすめだという。
見慣れない野菜も、作り手から食べ方を聞くと、食卓へ連れて帰りやすくなる。

湘南たべまな便を運営する入澤理世さんは、普段は教材を届けた後の家族の表情を見る機会が少ない。
だからこそ、この日、子どもたちが楽しむ姿を目の前で見られたことが、純粋にうれしかったと話す。

継続して参加する家族とは、いつしか友人のような関係も生まれている。

教材を送るだけでは生まれにくい会話が、同じ畑で同じ時間を過ごすことで育っていく。

収穫したのは野菜だけではない。
家族で一緒に探し、見つけ、味わった時間も、それぞれの袋の中に入っているようだった。


夏野菜が、ご先祖さまの乗り物になる

収穫のあとには、日本の夏の風習に触れる時間も用意されていた。

ナスとキュウリに割り箸を刺し、ご先祖さまの乗り物とされる精霊馬と精霊牛をつくる。
そして、みんなで火を囲みながら、お盆の意味に耳を傾けた。

知っているようで、うまく説明できない。
家庭によっては、実際に体験する機会も少なくなっている。

子どもだけでなく、大人にとっても「そういう意味だったのか」と知り直す時間になった。

入澤さん自身、子どもの頃に祖母の家で迎え火をした記憶が、今も心に残っているという。

知識として覚えたからではない。

家族と一緒に準備し、火を見つめ、その場の空気ごと体で受け取ったからこそ、長い時間がたっても思い出せる。

旬の野菜を収穫することと、季節の風習を知ること。
一見別々に見える二つの体験は、「夏を家族で味わう」という一つの時間につながっていた。


畑で生まれた問いを、食卓へ持ち帰る

入澤さんが目指しているのは、食べものの知識を一方的に教えることではない。

親子で豊かな時間を過ごすこと。
その体験が、子どもの中に「もっと知りたい」という気持ちを生むこと。

そして、その先を家族がそれぞれの形で広げていくことだ。

畑で見たトマトを、家で切ってみる。
断面を比べる。
収穫した野菜を一緒に料理する。
絵本を読み返し、ワークシートで遊ぶ。

体験は、畑を出たところで終わらない。

むしろ、持ち帰った野菜が食卓に並んだとき、もう一度始まる。

次にスーパーでトマトを見たとき。
次にキュウリの白い表面に触れたとき。
次の夏、お盆を迎えたとき。

その向こう側に、葉の匂いや土の感触、虫の羽音、家族と笑った時間が、少しだけ重なるかもしれない。

この日、子どもたちが持ち帰ったのは、答えではなかった。

「これは何?」

「どうして違うの?」

「どうやって食べよう?」

畑で拾ったいくつもの問いが、袋いっぱいの夏野菜と一緒に、それぞれの家の食卓へ向かっていった。


取材・文:フジノオト
協力:湘南たべまな便柿右衛門農園

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