ライズへの一年|第6回 「キャラクター」が、客席に出た日

目次

序

「キャスト、大丈夫?」

開場を前に、声が飛ぶ。

プロジェクターを確認する人。 受付の準備をする人。 ステージの立ち位置を確かめる人。

「バタバタしているところで、お客さんは入れられない。みんながオッケーになったら、入場させてほしい」

誰が、どこに立つのか。

いつもの稽古とは違う種類の慌ただしさが、会場にあった。

2026年10月12日、祝日の夜。六会市民センターの三階ホール。

この日は、Aquarise(アクアライズ)にとって初めての自主イベント、交流会だった。

開場の前、浅川さんはメンバーに向けて、こう話していた。

「初めて自分たちで開催するイベントだから、うまくいかないことが、きっとあると思う。でも、全力でお客さんを楽しませてほしい。自分たちが主催するんだっていう責任を持って」

そして、もう一つ。

六月のキックオフで、今期のテーマソングに決まった緑黄色社会の「キャラクター」を、初めて人前で披露する日だった。


稽古場の外へ

六月。 八人が集まって、今年のテーマソングを決めた。 最後に選んだのが「キャラクター」だった。

その日のキックオフでは、一人ひとりが今年の目標も口にした。

自分だけの、一番になれる何かを見つけたい。 中途半端な自分から、卒業したい。 自分に、自信を持ちたい。 嫌いな自分を含めて、好きなことをできる自分になりたい。

それぞれ違う目標を持った八人が、一つの曲を選んだ。

それから数か月。

名店ビルの稽古場で、何度もやり直してきた。

手の向き。顔の角度。移動のタイミング。

「間違えてもいいから」

そう言われながら。

この日は人数の都合で、歌に絞っての披露だった。ダンスまで揃うのは、三月の本公演になる。

まだ、すべてが揃っているわけではない。

それでも、この日はもう、鏡の前ではなかった。

目の前には、お客さんがいる。 音楽が流れる。 手拍子が起きる。

六月に「この曲でいこう」と決めたものが、初めて稽古場の外へ出た。


場所も、自分たちでつくる

これまでAquariseが地域のイベントに出るときは、誰かにつくられた場所へ呼ばれていくことが多かった。

時間が決まっている。 ステージが用意されている。 そこで歌い、踊る。

でも、今回は違う。

人を呼ぶところから、自分たちでつくる。

そのイベントづくりを中心で進めたのは、今年からAquariseに加わった大学生インターンの菱沼未侑(ひしぬまみう)さん(あだ名は、ひしみう)だった。

Aquariseがインターンを受け入れるのは、今回が初めて。 ひしみうさんが、第一号になる。

大学では一度、授業の中でイベントを企画した経験があった。 でも、本人の中では、うまくいかなかったという。

だから次は、

「みんなで何か一つをつくるところに行きたい」

そうメンターに相談して、推薦されたのがAquariseだった。

推薦されたとき、こう聞いた。
日常の時間を削ってでも、この活動に注いでいる人が多い、と。

「熱意とか、努力量についていけるかな」

最初に浮かんだのは、自分についての不安だった。

入って最初の全体ミーティングでは、別のことを思った。
大学生の主宰たちは熱心でも、高校生は、なんとなく来ている人が多いのかもしれない。

実際は、違った。

高校生も、主宰と同じ熱量で意見を出す。
議論があちこちに飛んでも、一つずつ考えて、答えを出していく。
話が横道に逸れれば、誰かが戻す。
ふざけていたかと思えば、別の誰かが「やろう」と言う。

「みんな、自分のことだけじゃなくて、団体としての責任感を持っているんだなって」

最初は遠慮もあった。こう言っていいのかな、と迷うこともあった。
けれど、その姿を見ているうちに、自分も本気で関わろう、と思うようになった。
今では、何でも言い合える関係だという。


「助けてください」から

インターンとして入ったものの、最初から仕事が用意されていたわけではない。

入ってしばらくは、何をするかが決まらない時期が続いた。 仕事を見つけないと、という焦りもあったという。

自分に何ができるのか。 何をすればいいのか。

そこから探す時間があった。

そんな中で出てきたのが、浅川さんのひと言だった。

「イベントをやって、いろんな人を、自分たちで集めてみようよ」

ひしみうさんは、自分がやります、と手を挙げた。

テーマソングを披露する。 そこまでは決まった。 でも、その先は白紙だった。

何をやるのか。 誰が出るのか。 何人呼ぶのか。 どの会場なら入るのか。

本人にも、イベントをゼロからつくった経験はない。

そこで、AquariseのグループLINEに投げた。

「助けてください」

そこから、みんなで考えた。

自己紹介をする。 これまでの活動を話す。 お客さんとも交流できる時間をつくる。

一人でつくったイベントではない。 分からないと言って、周りを巻き込んで、形になった。

当日、司会のマイクを握ったのも、ひしみうさんだった。

「キャラクター」を歌い終えたメンバーを見送って、客席に向かってこう言った。

「実は私自身、初めて舞台の上で見たんですけど。練習といつもとじゃ、違いますね」

稽古場で何度も聴いてきた曲を、この日初めて、客席の側から聴いていた。


見るだけではなく

途中には、「共通点探しゲーム」があった。

Aquariseのメンバーと来場者が、グループに分かれる。六分間で、全員に共通することをできるだけ多く探す。

夏と冬なら、どちらが好きか。 海か、山か。 米派か。

質問が飛び交うたびに、笑い声が上がる。

この企画には、一つ狙いがあった。

Aquariseから来場者への矢印だけではなく、来場者からAquarise、 来場者と来場者の間にも、矢印をつくりたい。

ステージを見る人と、見られる人。 それだけの関係にはしない。

同じ場所に来た人同士が、少し話す。

今回のイベントは、そんな時間も含めてつくられていた。


自分たちのことを、自分たちで話す

イベントでは、メンバー自身がAquariseについて話す時間もあった。

制作のメンバーは、Aquariseが目指している未来を話した。

高校生が、自分のやりたいことに挑戦できる社会。 学校の外にも、仲間と表現に打ち込める居場所があること。 高校生と、地域や企業や行政との間に、新しい支え合いが生まれること。

続いて、一人ずつの自己紹介。

SNSを担当する人。 衣装や小道具をつくる人。 去年は制作、今年はキャストになった人。 今期から新しく加わった人。

ともかさんは、これから出演するイベントについて、

「11月29日に、湘南台でまたイベントをやるんですけど、それは私がInstagramで見つけて、DMして取ってきました」

と話した。

誰かが出演先を持ってくるのを待つのではなく、自分で探して、自分で連絡した。

かのりさんは、SNS担当として、

「まだ一回も自分の力で投稿してないので、自分の力で投稿するのが目標です」

と話した。

大きなことではないのかもしれない。

でも、六月に話していた「こうなりたい」が、少しずつ行動になっている。

後半には、ひしみうさんが、Aquaから続いてきた歩みや、クラウドファンディング、支えてくれた人たちへの感謝、これからの目標を発表した。最後に、メンバーが一人ずつ、来場者へ言葉を届けた。

舞台の上で表現するだけではない。

自分たちが何をしているのかを、人に説明する。

それも、この日の「お披露目」の一つだった。


六百席の前に

今年の目標として、何度も出てきた数字がある。

六百席。

これまで目指してきたのは、四百席の完売だった。 三月の本公演では、これまでより大きな会場に立つ。

六百席を埋めたい。

そのためには、歌やダンスを練習するだけでは足りない。

知ってもらう。 イベントに出る。 SNSで発信する。 人に声をかける。 そして、自分たちで人が集まる場所をつくる。

「たくさん売らなきゃだし、たくさん知ってもらわなきゃ」

メンバーから、そんな言葉も出た。

今回、初めてイベントでパフォーマンスをした新しいキャストもいた。

客席から手拍子が起きた。

「すごく、感動してて」

そう話したあと、

「これをまた三月にやるんだなと思うと、すごいワクワクしてる」

と続けた。

その一方で、六百人を楽しませられるのかという不安もある。

六百席は、まだ先にある。

この日は、その手前にある客席だった。


「まだ完成していない」

終演後、Aquariseを支援している来場者の一人が話した。

「まだ完成していないというところがいい」

これから、もっと伸びる。 変わっていく。 その過程を楽しみにしている、と。

この日の「キャラクター」も、完成形ではない。

六月に曲を決めた。 稽古場で、何度も間違えた。 そして十月、まずは歌から、初めて人に聴いてもらった。

三月には、きっとまた違う「キャラクター」になっている。


編集後記

イベントを終えたひしみうさんに、これからのことを聞いた。

三月まで、どうやって公演ができていくのか。 自分に何ができるのか。

まだ分からないことも多いという。

それでも、こう話した。

「インターンではありますけど、もう正真正銘のAquariseの一員として頑張っていきたい」

最初は、熱量についていけるか心配だった。

半年後、ひしみうさんは、自分からイベントをつくり、司会席から「キャラクター」を聴いていた。

その曲は、六月に八人が選んだ曲だった。

もちろん、まだ大きな本番ではない。 客席も、六百席ではない。 歌も、ダンスも、団体そのものも、まだ途中にいる。

それでも、

「今年、このメンバーでやる」と決めたものが、初めて誰かに届いた。

舞台は、本番の日だけにつくられるものではない。

曲を決める日があって。 何度も振りを間違える日があって。 「助けてください」と言う人がいて。 椅子を並べて、人を呼ぶ日がある。

そうして少しずつ、三月の客席へ近づいていく。

この日、「キャラクター」は初めて、客席の前に立った。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次